私はオペラ公演、演劇公演、器楽のコンサート等あらゆる舞台、コンサートに出掛ける。そこでいつも感じるのが、観客層の違いである。もちろん個々の公演によって観客が異なるのは当たり前なのであるがある程度は、その公演のカテゴリーごとに特徴があるように思う。オペラ公演ではやはり年齢層が全体的に高い、そして若い人は師匠が出演していたりする若い声楽家が多かったりする。演劇の公演では、公演の劇団やプロダクションにもよるが、比較的若い世代が多いことがある。また、器楽のコンサートではオペラの公演とは違った質の観客が集めっている。先日、ショパンコンクールで話題となったピアニストの角野隼斗がソリストとして出演するコンサートに行ったが、驚くべく、一炊の隙間もなく満席で盛り上がった。全体的に女性が多いように感じられた。まー彼の人気によるものだとは思うが、オペラの観客とはやはり異なる感じであった。ピアノという楽器に特化したこと、彼の音楽にだけ集中している人が多かったように思う。一方オペラを見に行く観客層はやはりまだ、限られた層なのではなかろうか。もちろん他の公演よりチケットの値段も高いので、敷居が高いと感じている人も少なくないのではないか。なかなか客席がほぼほぼ埋まるなどのことは稀である。演劇を見に行く観客はもちろん出演の役者目当てということもあるが、やはり演劇そのもののドラマだったり、演出だったりを観る人が多いのではないか。もちろん衣裳等に惹きつけられる人もいるだろう。一方オペラの観客は何を観に来ているのだろうか、歌手の圧倒的な声の響きに酔いしれる人、歌も含めたトータルな意味での音楽の表現の妙技を楽しむのか、その表現を生み出す指揮者の音楽表現の技量なのか、また、舞台上の音楽との絡みの上での演出的な表現の素晴らしさなのか、はたまたきらびやかな衣裳なのか。オペラについて私が一番思うことは、観るべき物事の情報量が多すぎるということである。このことが、ある意味オペラを楽しむことを難しくしていることであり、一方色々な角度で楽しめるという利点とも思えるのである。すなわちオペラ鑑賞は一様ではなく、非常に多様であることである。他の公演と違うことがこの点にあり、この多様性を醸し出している根本に、前回お話しした音楽と台本の二本の柱がオペラには存在するということに集約されていると言えるのであろう。上演側が、楽譜を基点に音楽表現を舞台上に表し観客に訴えるのか、台本を基点に演劇的なドラマの表現、演出を訴えるのか、この二つのせめぎあいによってオペラの全体像が浮き彫りとなる。
聴衆論としてオペラを観るうえでも音楽と台本の関わりはその視聴行動に特徴を与える根本原因となっている。今後もこの二つの視点を見据えてオペラについて述べていきたい。