オペラってなにもの?

《オペラニュース》というページには、オペラについての包括的な話題を提供していけたらと思っている。いわゆる一般的なオペラに関するジャーナリズム的な記事を書き連ねていく場ではないということをお断りしておきたい。時たまオペラから少し離れた視点でのトピックもお話しするかもしれない。すなわちクラシック音楽全般についてのどちらかというと少しばかり学術的な方向にも踏み込むことになるかと思う。お付き合いのほどよろしくお願いいたしたい。

さて、一回目はタイトルでも謳っているようにそもそも「オペラってなにもの?」ということから始めたい。

オペラってそもそも音楽のジャンルとして成立していると考えられているものなのか、それとも演劇やミュージカルと同様に舞台芸術として捉えるものなのか。結論から申すと、どちらも正しいのである。それこそが、オペラの特徴でありまた、不思議な点であると言える。まあ~一般的にはオペラはある一つの独立したジャンルとしてみなされ、どちらかというと音楽の側面から語られることが多い。それはすべての部分あるいは多くの部分が歌われ、楽譜によって全体が細かく規定されているからである。

オペラの楽譜はクラシック音楽の交響曲などと同じくスコアーと呼ばれている。そのスコアーには、主に歌手がオペラを学ぶためのヴォーカルスコアー、そして指揮者がオペラを把握するための、すべての要素が書き込まれたフルスコアー、という二種類のものがある。ヴォーカルスコアーは、本来オーケストラの部分をピアノ用に置き換えて、歌い手のパートとともに書かれている。歌われるということは当然、歌詞が書かれている。そしてその歌詞全体は結果的に物語を描くこととなる。ここで問題となるのが、この物語性、延いては演劇でいうドラマ性を生み出すことである。演劇の世界で言う戯曲がオペラにも存在する。それがリブレットと呼ばれるオペラ台本である。オペラ台本には普通オペラの作曲家とは別にオペラ台本作家という人物が存在する。もちろん作曲家自身がオペラ台本の著作も手掛けるケースは多々存在している。典型的なのが、ワーグナーである。全ての作品について台本と音楽を手掛けている。日本では、オペラの著作者は作曲家としてみなされ、台本作家についてはあまり言及されないのが常である。しかしながら台本とそこにつけられた音楽の関係性はとても奥深いものがある。突き詰めるととても学術的な内容となってしまう。それだけオペラには柱となるこの二つの要素が根本的に存在している。このことが、先ほど申し上げたオペラが、音楽として成立したジャンルであり舞台芸術としても成立しているという所以である。この音楽芸術なのか、舞台芸術なのかという違いがオペラを理解する上での重要なポイントになる。

 オペラを上演するという角度から捉え直すと、この二つの要素が指揮者あるいは音楽監督と演出家という二人の公演を統括する権限を持つ人が制作現場にいる状況に置き換わることとなる。この

音楽芸術であり舞台芸術であること、すなわちスコアーがあり台本があること、指揮者と演出家が上演形態に存在すること、このことが「オペラってなにもの」を紐解く鍵となる。

全く別の角度から眺めるとまた違ったことが見えてくる。オペラの中にはアリアなどの歌手の独唱の場面で聴かせどころの部分がある。この部分は全体から取り出され、コンサート等で歌われる。さらにCDなどにも、歌手のアルバムとしてオペラアリアばかりを集めたものも多数販売されている。このことを演劇の側面から見ると、ある登場人物の長台詞をその演劇全体から取り出して役者のワンマンショーでしゃべらすこと、それをCDで楽しむなんてなんだかおかしくて、その取り出した部分が作品の一部として成立するとはとても思えない。演劇同様の舞台芸術でありながらその一部分を取り出してこの圧倒的な歌唱の素晴らしさ、音楽の流れ歌声に身をゆだねて楽しむということが成立する、舞台芸術でありながらある一部分を取りだして聴衆に圧倒的な歌声を轟かせ喜びを与えることができる。これこそがオペラのオペラたるところと言える。また、オペラに於いてのキャスティングが歌手の声質や力量で決まり、それをお目当てに来る聴衆も少なくない。

この音楽と台本との関係はオペラを鑑賞するうえで、はたまたオペラのことをより良く理解していくのに欠かせないポイントとなる。この二本の柱を土台としてオペラについてこれから語っていきたいと考えている。